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「変わらなければ始まらない」
●たった一度の人生をどう生きるか
弊社には、「○月○日 二度と来ない今日一日を 明るく 真摯に 精一杯 私は生きます」と書かれた、出勤簿代わりのパネルがあります。毎朝、社員はこのパネルを読み、名前を書き込んでから仕事を始めます。
原点にあるのは、”A man is mortal.”(人間は必ず死んでしまう)という考え方です。私たちは、人類には長い歴史があるにもかかわらず、地球上には数えきれない国や地域があるにもかかわらず、今、この場所に生きている奇跡の生命です。そして、その生命は、何の前触れもなく、ある日突然終わっていきます。この点において、全ての社員は、パート社員から社長まで皆、平等に同じ存在です。
「今日という日は二度と来ない」「今日が人生で最後の日になるかも知れない」と思えば、私たちは皆、一瞬一瞬を精一杯に生きたいと願うはずですし、高みを目指して登っていくことに喜びを見出すはずです。そして、その思いは、仕事を通じて、大きな生きがいや、人生の意義に昇華されるのだと思います。
私たち、中小企業の経営者は、この一点において非常に大きな責任を負います。全ての社員が、自らのたった一度の有限な人生を懸けることのできる仕事ができているだろうか。彼らは、喜々として情熱を傾ける仕事をしているだろうか。その仕事は、彼らが心の底から誇りに思えるものだろうか。私たちは、他社に真似のできない商品やサービス、工程等を生み出し、彼らのモチベーションを高め、その思いに値する仕事をつくり続ける必要があります。また、それこそが中小企業の経営者としての人生を生きる意義であり喜びなのではないでしょうか。
●社長が変われば社員が変わり、社員が変われば会社が変わる
近年の私の経験です。ある流通の変化に気づかず、取引先を何軒か失いました。損益計算書におけるその影響は限定的でしたが、起こり得る様々な変化に依る将来への不安は、大きな危機感となり私の心に大きな傷を残しました。鬱々とした日々を過ごす中、「自分の考え方は間違っている。今、変わらなければ、社員の人生を台無しにしてしまうのではないか。そうなったら、後悔してもしきれない。」と心底思いました。
これまでの自分を振り返ると、自尊心が異常に強く、思い込みが激しく、同友会の先輩や社員が良かれと思って意見してくれても、「自分の方が正しいに決まっている」と、ろくに聞く耳を持たず、まさしく「裸の王様」のように生きてきました。変化することに怯え、既得の商品や市場にすがり付いていたことに気付きました。
家で酒を飲みながら好きな本を読み、一人でスキーに行き、自分の殻に閉じこもって、誰からも邪魔をされずに気ままに生活をする。一方、会社では、自らを省みず、周りや環境のせいにして、社員に変化や革新を求める。これで会社が良くなるほど、世の中は甘くはない。
順風満帆でなく、これまでにない不安や危機が心をえぐり、初めて人は変化の必要性を実感するのではないでしょうか。ピンチは、自らを変化へ誘う最大のチャンスだと痛感した次第。
「社長が変われば社員が変わる、社員が変われば会社が変わる」、同友会では、繰り返し言われてきた言葉ですが、会社変革へのムーブメントの第一歩は、まず社長である私たちが変わることです。雪山に立つ樅の枝から落ちた小さな雪塊が、斜面を転がるうちにみるみる大きな雪玉に成長していくように、私たちの小さな変化は、社員の変化を促し、やがては大きく会社を変えてくれるはずです。
●会社を取り巻く環境は変化し続ける
2009年4月、8,000円代だった日経平均株価は20,000円を超え、山手線の車窓からは、新国立競技場や高層ビルの巨大な建設作業現場が次々に飛び込んできます。銀座に行けば、三越前には海外から来た観光客があふれ、プラダのロゴの入った紙袋やマツキヨのビニール袋を両手に闊歩しています。アマゾンや楽天には、ありとあらゆる商品があふれ、私たちは何のためらいもなくネットショッピングをするようになりました。有効求人倍率は調査開始以来最高の水準で、私どもの町工場の求人にも大変苦労する状況です。10年前には想像できなかった環境に、今、私たちは在ります。
これら環境が、現在の経営に合致し波に乗る企業も、そうでない企業も様々ですが、ただ一つ確かなことは、環境は止まることなく変化し続けるということです。中小企業は、世界を股にかける巨大企業のように、ビジネスのルールや枠組みなどの環境を作ったり、整備したりすることはできません。中小企業にできることは、変化する環境に合わせ、大企業が入り込めない領域での独自の商品やサービス、工程の創造や革新を軸にした経営です。中小企業は環境適応業であり、チビだからこそ可能になる細やかでスピーディーな適応は中小企業の得意技で、大企業にできることではありません。
今後も、10月には消費税増税が予定され、働き方改革、最低賃金改定も進められていきます。米中関係、為替、オイルプライスなど、予測不能な変化も起こるでしょう。待ったなしの環境変化の荒波の中で、小さな小舟の船頭である中小企業の経営者は、はっきりと目的地を定め、舵を取り、風や波を見て航海を続けなければなりません。状況の改善をただ待っていても何も起こりませんし、誰も助けてくれません。従って、経営者自らが学び、未来や変化を見越した経営指針を立て、社員に明確な方針を伝える力を身に着けることが不可欠です。
それには・・・
●変わらなければ始まらない
勇気を振り絞り変化に前向きな自分であれば、異質を甘受できれば、同友会は、今まで見えてこなかった、キラキラ輝く経営のヒントにあふれています。一緒に変わり、社員のたった一度の有限な人生を懸けるに値する仕事ができる会社を、全ての社員が笑顔で、自らの仕事を誇りに思って生きていくことができる会社をつくることができれば、「俺の人生もそこそこだったなあ」なんて思いながら死んでいけるのではないでしょうか。
【活動方針】
■1:毎月の例会を珠玉の学びの場に
いつもお顔を拝見する会員さん、休眠会員さん、ちょっと足が遠のいているシニア会員さん、さらには新入会員候補の皆さんが、同友会の素晴らしさを認識する最適な機会は毎月の例会です。よい例会は、よい会社をつくるための気づきと学び、ヒントにあふれた例会です。6年に亘り支部の例会を企画し、脂の乗り切った稲原さんと西躰さんに例会企画委員をお願いします。
当支部には、県はもとより全国に顔の利く竹内さんや穂坂さんがおります。引き続き、その人脈もフルに活かし、時には、旬な講師をお招きしたいと思います。例会企画委員の構成するテーマに沿った骨子に、毎月の例会担当グループ長を中心に肉付けをして、参加者をうならせる例会をつくっていきましょう。それぞれの担当副支部長は、例会企画委員と協力し、グループ長の仕事を監督してください。
多様性こそが同友会の最大の特徴です。例会参加者の求めるものもユニークであって然り、スケールの大きなバズセッション(盗み合い)を楽しみましょう!
■2:グループ会、青懇、シニアの会、経営指針研究会
Cグループに集中していたシニア会員さんの豊かな経験と叡智を広く共有させていただきたく、各グループに鏤めます。それに伴い、若干のメンバーのシャッフルを行います。
グループ会、青懇、シニアの会、経営指針研究会では、コミュニケーションと懇親を深め、経営課題は勿論、人生に起こる様々な問題や不思議についても相談できる、本音で付き合えるバディーを見つけてください。同友会の同じ経営者の中に、そんな存在を見いだせたら、まさしく一生の宝物になるのではないかと思います。
世代を超えた会員間の交流も、同友会の醍醐味でしょう。青懇では、渡邉昌和さんを兄のように慕う鈴木進太郎さんがいましたし、2月のシニアの会では、遠藤一徳さんをはじめ、多くの先輩に必死でくらいつく大澤さんや若手メンバーの姿が印象的でした。
「電話一本で何でも相談できる」関係をグループ会、青懇、シニアの会、経営指針研究会でつくってください。グループ長さん、部会長さんは、精一杯楽しんで、リーダーシップとクリエーティビティーを発揮し、「富士宮支部内にあなたあり!」という存在になってください。
■3:全国大会にどんどん参加しよう
昨年の富士支部との合同例会の講師、鋤柄さんを送迎するチャンスを得ました。車中、「明確な課題とビジョンを持ち全国大会に参加すれば、必ず目標とすべき経営者が目の前に現れる。何年もかけて、ずっとその経営者に食らいつき、徹底的に盗みなさい」とアドバイスをいただきました。
全国から集まる会員は、私たち同様に大きな悩みや課題を持つ中で、何とか前進しようと奮闘する人たちです。バズや交流を通じ、共感、叱責、激励し合える素晴らしい仲間もできます。そういえば、鋤柄さんの口癖は「皆さん、変わりましたか?」でした。
今年度の全国3大会は
・7月4日5日 定時総会(東京)
・9月12日13日 青年経営者全国交流会(熊本)
・2月13日14日 中小企業問題全国研究集会(京都)
です。「変わりたい人」、是非、一緒に参加しましょう。
■4:例会に現会員をもっと呼んでこよう
「同友会の会員は辞書の一頁」です。現在、富士宮支部には133名の会員がいます。しかしながら例会出席率となると50%に満たない会が多いのが現状です。毎月の例会は同友会活動の根幹となる学びの場であり、真剣な経営者の一人でも多くの参加が、シナジー効果を生み、多くの学びやヒントを生み出します。
同友会の三つの目的である、「よい経営者になろう」「よい会社をつくろう」「よい経営環境をつくろう」は普遍的なものであり、会員のコツコツと積み重ねる努力による理念の訴求こそが、他の会には絶対にない同友会の素晴らしさでしょう。事情もあるでしょうが、あまり出席していない会員の皆様には、「なぜ同友会に入ったのか」「何を同友会に求めているのか」を再度確認する機会を、グループ会や会員訪問などで設けてみてはいかがでしょうか。きっと、「出席しなけりゃもったいない」と思ってくれるはずです。
■5:支部の辞書の頁を増やすために
まず、現会員の私たちが同友会に参加して、「社長が変われば社員が変わる、社員が変われば会社が変わる」を実践しましょう。その真価を知れば、自然と周りの人たちに声をかけるはずですし、「同友会は知っているけど敷居が高い」「他の異業種交流の会と同じではないのか」そんな偏見も、皆さんの変化、会社の変化を目の当たりにすれば、あっという間に吹き飛んでいくはずです。
最後に・・・
基本的には、朝日前支部長の包容力とリーダーシップを真似ながら、会員の皆さんと支部をつくっていきたいと思っています。
先に触れましたが、パートのおばちゃんも、社長も、人生は一度きり。沢山の会社の中から自社を選んでくれたのです。仕事を通じて自分の人生を誇りに満ちた豊かなものにしたいのです。私たち、中小企業のおやじの仕事は、頭をひねり、体にムチ打ち、何とかそれに応える仕事を生みだすことです。それができれば、自社は、唯一無二のピカピカの会社になるはずです。支部会員皆で、そんな会社をつくり、この嶽麓の小さなまちを、一味違う、ぴりりと辛い“チビ”が、日本一多いまちにしてみませんか。
平成31年度 支部長 阿久澤太郎(株式会社東海製蝋 代表取締役)